第9話 湯守の結び目

石段の下から、濡れた土を踏む音が近づいてきた。
ひとつ、重く。
間を置いて、もうひとつ。
私は古い宿帳を膝の上に開いたまま、顔を上げた。源泉から立ちのぼる湯気が石段を這い、朝の冷たい空気と混じっている。白い蒸気の向こうに、小松遼の姿があった。青い格子の浴衣。濡れた裾。片手に、結び目のほつれた古い紐を握っている。
少年は石段の下を見た。
源一が上ってくる。
濃い色の作務衣の袖をまくり、片手には湯守の道具を入れた布袋を提げていた。髪の生え際に細かな水滴が残っている。源泉の設備を見てきたのか、草履の底には黒い泥が薄くついていた。
源一は私を見るより先に、湯気の流れを見た。
それから祠を見て、少年を見た。
少年はその視線を受けると、わずかに肩をすくめた。怖がっているようには見えない。ただ、そこにいてはいけないと言われる前の身体が、先に身を小さくしているようだった。
源一は石段を上りきると、祠の前で足音を止めた。
足を止めたというより、祠の前だけは音を置かないようにしたのだと思う。彼は背筋を伸ばし、布袋から白い布を取り出した。濡れた指先を袖で拭い、縄の結び目へ手を伸ばす。
縄は雨を吸って重く垂れていた。古い繊維の隙間には黒い泥が入り込み、結び目の一部がほどけかけている。
源一が指をかけると、繊維が軋んだ。
きゅ、と短い音がした。
その音だけで、私は彼が来たことを知っていたのだと分かった。源一は湯の流れを見るためだけに来たのではない。祠の縄がどのように緩み、どこまで崩れかけているのかを、音で確かめていた。
「封が弱まっているのですか」
私が尋ねると、源一はすぐに答えなかった。
縄を見たまま、湯気の匂いを吸う。源泉の奥から、いつもの鉄と濡れた石の臭いに混じって、古い布を煮たような匂いが上がっていた。私は膝元の宿帳へ指を置いた。紙の冷たさが、皮膚の奥まで伝わってくる。
源一は石の表面へ手を触れた。
「湯の温度が、昨日から下がっている」
「雨のせいではないんですか」
「雨なら、流れが速くなる。今日は逆だ。湯が重い」
「重い?」
「下から、押し返されている」
源一は石から手を離した。指先についた苔を、布で丁寧に拭う。
「源泉の水は、上がるときに音が変わる。いつもなら、細かく割れて流れる。今はひとつにまとまっている。祠の下で、どこかが塞がっている」
「封が、何かを閉じ込めているからですか」
「封は、閉じ込めるためだけのものではない」
「では、何のために?」
源一は縄の結び目へ指をかけたまま、少年の方を見なかった。
「崩れないようにするためだ」
「誰がですか」
「宿が」
「宿を崩さないために、遼くんをここに置いているんですか」
源一の指が止まった。
少年の輪郭が湯気の中で薄く揺れる。遼は祠の扉を見ていた。こちらの話を聞いているのか、ただ声の向きを感じ取っているのかは分からない。ただ、名前が出るたび、手にした紐を強く握っていた。
「遼くんは、ここにいたいわけではありません」
私は続けた。
「でも、帰る場所も分からない。だから、宿の人たちは名前を呼ばず、九番の間を閉じて、祠の縄を結んできた。そうやって、ずっと留めてきた」
「留めてきた、という言い方は正しくない」
源一の声は静かだった。
「留まっているものを、外へ出さないようにしてきた」
「同じではありませんか」
「違う」
「どこが違うんです」
「こちらから縛ったのか、向こうが動けないのか。その違いは大きい」
「遼くんは、動けないんです」
「だから、封を解けばいいとは限らない」
源一は縄をほどき始めた。古い結び目は水を含んで硬くなり、指先で押しても容易には緩まない。彼は無理に引っ張らず、繊維の向きを確かめながら、少しずつ力を分けていく。
「感情だけで封を解けば、湯があふれる。宿の床下まで水が回れば、客を避難させなければならない。源泉が濁れば、明日から湯を止める必要がある。そうなれば、働く者も、泊まっている客も困る。祠を開けることは、遼だけの問題ではない」
「分かっています」
「分かっていない顔をしている」
「分かっていないから、聞いています」
私は宿帳を閉じた。表紙の角を、無意識に何度も撫でる。
「ここにいる人たちを困らせたくありません。宿を壊したくもない。けれど、宿を守るために遼くんがここから動けないままなら、それは守ることではなく、使うことだと思います。怖いものを封じるために、ひとりの子供を結び目の中へ押し込んでいるだけです」
源一は手を止めた。
ほどけかけた縄の端が、彼の指の間で垂れている。湯気が指先を包み、濡れた肌の上で白くほどけた。
「俺は、あの夜のことを知らない」
「でも、足音を聞いたことがあるのでしょう」
源一の目が、初めて私へ向いた。
「誰から聞いた」
「お駒さんです。源一さんは、昔はまだ子供だったと」
「そうか」
「あなたも、見て見ぬふりをしたことがあるんですか」
源一は答えなかった。
祠の屋根から、雨の名残の雫が一つ落ちた。石の上で弾け、白い布の端を濡らす。
「一度だけ」
源一は言った。
「先代が亡くなる前の年だ。夜中に、九番の方から足音がした。俺は湯温を見ていた。湯が不安定で、客室へ流れる管の一つが詰まりかけていた。先代は、湯を止めるなと言った。宿に客がいるから、明日の朝まで持たせろと」
「それで、行かなかった」
「行かなかった」
源一の声は、石段の下へ落ちる水のように乾いていた。
「足音は、二度した。子供の草履だった。三度目に、俺は聞こえなかったことにした。聞こえたと言えば、先代が行けと言う。行けば、湯を見ている者がいなくなる。俺は、役目を選んだ」
「役目を選んだのに、今も足音を覚えている」
「選んだつもりだった。実際には、選ばなかっただけだ」
源一は縄を見下ろした。
「何もしないことは、何も選ばないことではない。時間が経つ方へ任せるという選択だ。時間は、たいてい弱い方から持っていく」
その言葉は、源一自身へ向けられているようだった。
少年が一歩、祠へ近づいた。
足音はなかった。けれど、石の表面に濡れた跡が残る。遼は源一の背中を見ていた。名前を呼ばれたときのような緊張が、肩から抜けない。
源一はその気配を感じているはずなのに、振り返らなかった。
「ここは、留める場所じゃないかもしれない」
彼は縄の結び目へ指をかけたまま言った。
その声は、答えではなかった。迷いが、ようやく言葉の形を得たものだった。
私はその曖昧さに、少しだけ救われた。
信濃は帳簿を閉じることで、決めないことを守っていた。お駒は茶を淹れ、菓子を置くことで、決めないことをやさしさの形にしていた。源一は縄を結び直し、湯の温度を測ることで、決めない時間を持ちこたえようとしていた。
誰も、最初から冷たかったわけではない。
ただ、正しい別れを知らないまま、守ることだけを続けてきたのだ。
「源一さん」
「何だ」
「結び直すだけでは、もう足りないのではありませんか」
源一は縄から手を離した。
「そうかもしれない」
「ほどくことも、できない?」
「今はできない」
「どうして」
「遼が、まだここにいるからだ」
少年の肩が、わずかに上がった。
源一は初めて、遼の方へ顔を向けた。近づきはしない。目を合わせるだけだった。
「お前がここにいる限り、俺は勝手に封を解けない。帰りたいのか、残りたいのか、それを聞かないまま戸を開ければ、また置いていくことになる」
遼は黙っている。
「俺は、守ると言いながら、ずっと湯の側からしか見ていなかった。温度、流れ、音、縄の緩み。数えられるものなら判断できる。だが、お前が何を望んでいるかは、測れない」
少年の指が、古い紐を撫でた。
私は遼の横顔を見た。目は源一を見ている。けれど、そこには期待よりも警戒があった。大人が言葉を重ねたあと、最後には扉を閉めることを、身体が覚えているのだろう。
「遼くん」
私が呼ぶと、少年は一拍置いてこちらを向いた。
「源一さんは、あなたを追い出したいわけではないよ」
遼の目が源一へ戻る。
「ここに閉じ込めたいわけでもない。あなたがどこへ行きたいのかを、まだ知らないから、勝手に決められないだけ」
少年は返事をしなかった。
代わりに、祠の扉へ近づき、手を伸ばした。古い紐が、指の間でかすかに揺れる。触れる寸前で、遼の手は止まった。
源一が一歩だけ前へ出た。
すぐに止まる。
近づきすぎれば、少年の輪郭が湯気へ溶けることを知っているのだろう。彼は手を伸ばさず、ただ、祠の脇にある石を撫でた。苔を払うように、指の腹で表面をなぞる。
「この石は、昔からここにある」
源一は遼へ言った。
「雨の日も、雪の日も、湯が濁った日も、動かなかった。だが、動かないことと、何も感じないことは違う。石は水を吸う。苔も増える。見えないところで、少しずつ形を変える」
遼は石を見た。
「封も同じだ。結び目は同じに見えても、内側の繊維は弱くなる。だから、毎日触れて確かめる。俺はそれを、崩れないようにすることだと思っていた」
源一は縄を見た。
「だが、崩れないようにするだけでは、古いものを古いまま残すだけだ。残すことが必要なときもある。けれど、残したものをどこへ返すかまで考えなければ、守ったことにはならない」
その言葉を聞いて、遼の肩から少しだけ力が抜けた。
源一は祠の石を一つだけ撫で、手を引いた。触れることをためらうその動作が、むしろ深い確認に見えた。彼は少年に触れないまま、そこにいることだけを認めている。
「封を弱めるのですか」
私が尋ねると、源一は首を横に振った。
「今は、結び直す」
「同じことでは?」
「結び直すが、固くはしない」
源一は縄の端を持ち上げた。
「水の通り道を残す。湯気が抜ける隙間も残す。音が戻ってこられるようにする。これまでの封は、外へ出ないためだけの形だった。これからは、出るものを出せる形に変える」
「それで、遼くんは帰れるんですか」
「分からない」
源一は短く答えた。
「だが、少なくとも、閉じ込めるための結び目ではなくなる」
源一は縄を結び始めた。
古い結び目を完全にはほどかず、傷んだ部分だけを避けて、新しい白い布を重ねていく。布は濡れた指に吸いつき、結ぶたびに小さく軋んだ。彼は一度ごとに力を止め、湯の流れを聞いた。
祠の下から、細い水音がした。
これまでより高い音だった。

源一は目を閉じ、指先で結び目を押さえる。
「ひとつ」
独り言のように呟く。
「水、流れる。ふたつ、湯気、抜ける。みっつ、音、戻る」
それは祈りに似ていた。けれど祈るだけではなく、手を動かしながら確かめるための言葉だった。
私はその横で、古い宿帳を開いた。
削られた頁を、祠の白い布の上へ置く。紙が湿気を吸い、端がゆっくり波打った。小松遼の名があったはずの空白は、朝の光を受けても白いままだった。
私は筆記具を取り出した。
少年がこちらを見た。
「まだ、正式には書かないよ」
私は言った。
「勝手に決めないって、源一さんが言ったから。でも、忘れないために、名前は持っている」
覚え帳を開く。
そこには、何度もなぞった小松遼の四文字がある。紙は少し皺になり、墨の一部が薄く滲んでいた。
「遼くん。あなたが帰る場所を、私はまだ知らない。宿の外にあるのか、祠の向こうにあるのか、それとも、誰かの記憶の中なのか。でも、分からないままでも、名前を持っていることはできる。ここにいたと覚えていることはできる」
少年は、私の覚え帳へ近づいた。
濡れた指先が、紙の端に触れる。
冷たさはなかった。
湯気に濡れた木のような、かすかな温かさがあった。
遼は文字を指でなぞらず、その横の余白へ触れた。空白を怖がるようでいて、同時に、そこへ何かを置こうとしているようにも見えた。
「ここにいる?」
私は尋ねた。
少年は首を横に振った。
「ここにいた?」
遼は、少し考えるように黙った。
やがて、ほんの少し頷いた。
その瞬間、祠の下で湯が動いた。
ご、と低い音が地面の奥から響き、石段の隙間から白い湯気が一気に噴き上がる。私の頬が熱に濡れ、首筋を水滴が流れた。源一はすぐに結び目を押さえ、もう片方の手で祠の扉を支えた。
「動くな」
誰に向けた言葉か分からなかった。
湯気の向こうで、遼の輪郭が二重になった。
一人は祠の前にいる。もう一人は、扉の向こう側に立っている。濡れた浴衣の背中が、閉じた木戸の内側でぼんやり浮かんでいた。
私は息を止めた。
扉の向こうの遼が、こちらを振り返る。
その手には、何か小さなものが握られていた。文字の消えた紙片。名札の切れ端のように見える。けれど湯気が濃く、形までは確かめられない。
源一の指が、結び目の上で震えた。
「まだ、ここに残っている」
「何がですか」
「遼の記憶だ」
源一は祠の扉から目を離さない。
「死んだときの記憶ではない。置かれたままになったときの記憶だ。扉の内側で、誰かを待っている」
「なら、開ければ」
「開ければ、記憶が流れ出す」
「流れ出れば、終わるかもしれない」
「お前がその記憶を受け止められるなら」
「受け止めるって、どうすればいいんですか」
「見て、聞いて、名前を呼ぶ。だが、途中で目を逸らすな。記憶だけを引き出して、また一人にするな」
源一の言葉が、湯気の中で重く残った。
扉の向こうで、遼が小さな手を上げた。誰かを呼ぶ仕草だった。けれど声はない。扉の木が、音を吸い込んでいる。
私は立ち上がった。
膝に残った石の冷たさが、足の裏へ戻ってくる。源一が私の袖口を掴んだ。
「志乃」
「行きます」
「まだ、名を戻していない」
「だから、戻します」
「名前を戻せば、あの子を帰せるとは限らない」
「分かっています」
私は古い宿帳を抱えた。
「でも、名前がないままでは、帰すこともできない。私たちは、今までずっと、帰す場所がないからという理由で、遼くんをここへ置いてきた。私はその順番を変えたいんです。先に名前を呼んで、いたことを認める。そのあとで、どこへ帰るかを一緒に探す」
源一は私を見た。
「簡単ではない」
「簡単にしようとは思っていません」
「戻れなくなるかもしれない」
「見なかったことに戻るよりは、ましです」
源一の手が、私の袖口から離れた。
彼は祠の扉へ向き直り、結び目を見下ろした。新しい白布は、古い縄の傷んだ部分を覆っている。けれど固く締められてはいない。風が通り、水が通り、音が戻れる隙間が残されていた。
「お前が呼ぶなら、俺もここにいる」
源一は言った。
「水が増えれば止める。湯が濁れば流れを変える。封が崩れれば、結び直す。だが、遼を閉じるためには使わない」
「はい」
「信濃にも言う。お駒にも」
「お願いします」
祠の内側で、紙を撫でる音がした。
私は帳面を開き、削られた欄へ筆先を近づけた。
まだ、名前は書かない。
先に呼ぶ。
「小松遼」
湯気が震えた。
「ここにいたね」
扉の向こうで、少年の手が動いた。
「小松遼。あなたは、いなかったことにはならない」
扉の外に立つ遼の輪郭が、少しずつ薄くなっていく。けれど、扉の向こうの姿は消えない。二つの姿が重なり、湯気の中で境目を失っていく。
「帰りたいなら、帰る場所を探す。残りたいなら、残る理由を聞く。どちらでも、名前を消さない」
少年の唇が動いた。
「……しの」
「うん。私はここにいる」
源一が、結び目へ手を置いた。
「俺もいる」
その言葉のあと、源泉の音が変わった。
低く淀んでいた流れが、細かく分かれた。石の下を通る水が、ひとつずつ別の道へ戻っていく。湯気は濃いままだったが、熱が少し下がった。肌にまとわりついていた蒸気が、冷たい水滴になって落ちる。
扉の向こうの遼が、こちらへ手を伸ばした。
私は手拭いを広げ、その手の近くへ置いた。
触れることはできない。
それでも、白い布の端が湯気に揺れ、少年の指先のそばで静かに止まった。
遼は布を見て、それから私を見た。
目だけが、少しやわらいだ。
祠の扉の向こうで、紙片が落ちた。
音は小さかった。けれど、石の上で消えずに残った。
源一は結び目から手を離した。
縄は以前より緩く見える。けれど、今度は崩れそうには見えなかった。閉じるためではなく、ほどける余地を残した結び目だった。
「今は、ここまでだ」
源一が言った。
「まだ、終わっていない」
「はい」
「終わっていないのに、終わったと思うな」
「思いません」
私は宿帳を閉じた。けれど、紙の端は揃えなかった。削られた名前の頁が、少しだけ外へはみ出している。
湯気がほどける。
少年の姿は、祠の前から消えていた。
扉の向こうにも、もういない。
代わりに、濡れた足跡が石段を下へ向かって続いていた。二つ、三つ。右足の跡は浅く、間隔は長い。それでも今度は、途中で途切れなかった。
私は足跡を見つめた。
源一はその隣に立ち、足跡へ触れなかった。ただ、行き先を確かめるように目で追った。
石段の下、瑞雲楼の裏口へ続く道の先で、足跡は白い湯気の中へ消えている。
「明日、信濃と話します」
私は言った。
「帳簿へ、名前を戻す」
「正式に?」
「正式に」
「お駒にも立ち会わせる」
「はい」
「俺も立ち会う」
源一は祠の白い布を見た。
「ただし、名前を書けば、それで終わるとは思うな」
「分かっています」
「記録は、終わりではなく、次の者へ渡すためのものだ」
源一はそう言って、濡れた指先を袖で拭いた。いつもの癖だった。けれど、その仕草には以前とは違うものが混じっていた。湯を測るだけではなく、湯の中に沈んだものを、これからどう扱うかを考える人の手つきだった。
私は古い宿帳を風呂敷へ包んだ。
白い手拭いを拾い上げる。布の端には、小さな水の輪が残っていた。掌へ載せると、その輪の中心だけがぬるく温かい。
石段の下から、草履が板を叩いた。
一度。
間を置いて、もう一度。
けれど今度の音は、誰かを待つ音ではなかった。
源一が結び直した祠の縄のように、そこにはほどける余地があった。音は宿の中へ戻り、廊下を渡り、帳場の方へ向かっている。
私は源一と並んで、石段を下りた。
湯気が背中から追ってくる。冷えた空気に触れた肌が、すぐにまた湿りを帯びた。遠くで厨房の鍋が鳴り、帳場から紙を揃える音が聞こえる。瑞雲楼は、何も変わらない朝の仕事へ戻ろうとしていた。
ただ、誰も歩いていないはずの廊下には、まだ小さな足音が残っていた。
私はその音を、もう拭わなかった。
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