13話 光と影の共闘

「あなたに何がわかるの!遠くから見てただけのあなたに!」

水瀬詩織の叫びは、まるでガラスの破片のように僕の鼓膜に突き刺さり、霧ヶ崎の港を見下ろす古い公園の空気に溶けずに漂っていた。彼女の瞳に浮かぶのは、僕という無責任な観測者への痛烈な拒絶。僕が享受してきた平和、僕が「天使」と崇めていた彼女の微笑み、そのすべてが彼女を縛る呪いだったと突きつけた僕に対する、当然の報いだった。血の気の引いた彼女の顔は、諦めと、そして僕の知らない奇妙な誇りによって強張っている。僕たちの間に横たわる沈黙は、まるで深くて冷たい海溝のようだった。

その静寂を、予期せぬ暴力が引き裂いた。

背後の茂みがガサリと音を立て、飛び出してきた影が僕の胸ぐらを乱暴に掴み上げた。一瞬、呼吸が止まる。汗と、微かな制汗スプレーの匂い。僕の世界には存在しないはずの、太陽の匂いがした。

「てめえ、さっきから詩織に何てこと言いやがる!」

バスケットボール部のエース、佐伯蓮だった。その瞳は純粋な怒りで燃え上がっている。僕が詩織を傷つけたと、彼の正義が断定していた。彼はずっと、僕たちの様子を物陰から窺っていたのだろう。

「お前みたいな根暗が、詩織の何を知ってるっていうんだ。いつも教室の隅でヘッドホンをつけて、ジメジメと本を読んでるだけのお前が! みんなの太陽みたいなあいつに近づいて、わけのわからないことで泣かせる権利が、お前にあるとでも思ってんのか!」

佐伯の言葉は、正しく、そして致命的に間違っていた。僕は掴まれたシャツの襟越しに、彼の目を真っ直ぐに見返した。恐怖はなかった。不思議なほど、頭は冴えわたっていた。

「権利の話なんか、誰もしていない。僕はただ、僕が知ってしまった事実を彼女に伝えただけだ。佐伯、君こそ彼女の何を知っている? 君の言う『みんなの太陽』は、本当に心から輝いているのか? 君が彼女の隣で笑っている時、君の視界の隅で、彼女が一瞬だけ見せる影に気づいたことはないのか? 君が見ているのは、君が、そしてみんなが見たいと願っている『完璧なマドンナの水瀬詩織』という偶像じゃないのか? 運命なんていう非現実的な言葉を口にした僕を馬鹿げていると思うなら、君は彼女のあの悲しい顔を、どう説明するんだ」

僕の言葉は、ナイフとなって佐伯の自信を切り裂いたようだった。彼の握る力が、わずかに緩む。その視線が、僕から、僕の後ろで唇を噛みしめて立ち尽くす詩織へと泳いだ。詩織の苦痛に歪んだ表情が、僕の言葉がただの妄想ではないことを無言で証明していた。

エースとして、常に周囲の期待という名の光を浴びてきた彼。その光が強ければ強いほど、濃くなる影の存在を、彼自身が誰よりも知っていたのかもしれない。彼が背負う「役割」と、詩織が背負わされた「運命」。形は違えど、その重圧の本質に、彼は触れてしまったのだ。

彼は僕の手を乱暴に振り払い、しかし今度は僕の肩を、まるで懇願するように掴んだ。その瞳から、先程までの燃えるような怒りは消え失せていた。

「……俺は」

絞り出すような声だった。

「俺は、あいつがただ普通に、腹の底から笑ってる顔が見たいだけだ」

プライドも、エースとしての体面も、すべてをかなぐり捨てた彼の言葉は、僕がこの孤独な探求の果てに手にした、最初の、そしてあまりにも眩しい光だった。僕はずっと一人で、暗い図書館の片隅で、古いインクの匂いに塗れながら真実を探してきた。それは誰にも理解されない、僕だけの戦いだと思っていた。

太陽の下を生きる彼と、影の中を歩いてきた僕。光と影のように、決して交わることのない正反対の存在だと思っていた僕たちの間に、水瀬詩織を救いたいという、ただ一つの願いによって、奇妙な共闘関係が生まれた瞬間だった。錆びたベンチと、色褪せた遊具しかないこの公園に、西日が差し込み、僕たち三人の歪な影を長く、長く地面に引き伸ばしていた。これから始まるであろう、あまりにも無謀な戦いの始まりを告げるように。

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