3話 親友のコミカルな助言

何度目かのループ。僕の「コレジャナイ人生」は、もはやデジャヴュという生易しい言葉では表現できない、完璧なまでに再現された不完全な日常と化していた。大学のカフェテリア。その喧騒は、僕の思考の迷宮にとっては都合の良い防音壁だ。手元の「過去の選択メモ」は、成功へのロードマップどころか、壮大な失敗の記録全集、あるいは、桜木悠真という男がいかにして白石葵にアプローチできずに終わるかという、悲劇的メタフィクションの草稿に成り下がっていた。

完璧なタイミング、完璧なセリフ、完璧なシチュエーション。それらを追い求めるあまり、僕はもはや、何が「正しい選択」なのかを見失っていた。まるで、解答用紙だけが配られ、問題文が存在しないテストを永遠に解かされている気分だ。このままでは、僕のひたむきで純情な想いは、ただの執着という名の化石になってしまうだろう。その焦燥感が、僕を唯一の理解者、いや、このループ地獄を知らない唯一無二の親友へと向かわせた。

「なあ、拓哉」

斜め前の席で、流行りのファッション雑誌をめくっていた斎藤拓哉が、顔を上げる。彼の周りだけ、空気が陽気に色づいているように見えるのは、僕の心がモノクロームだからか。

「おう、どうした悠真。また世界の真理でも見つけちまったみたいな顔して」

「……もし、お前がもう一度、初恋の相手にアプローチできるとしたら、どうする?」

僕の口からこぼれたのは、自分でも驚くほど切実な響きを帯びた問いだった。もちろん、ループ能力なんていう非現実的な前提は伏せたままだ。拓哉は雑誌をパタンと閉じ、大げさに腕を組んで、人差し指で顎をトントンと叩き始めた。彼の、自称・恋愛エキスパートモードの始動である。

「はっはーん、なるほどな。お前、まだ高校時代の初恋、引きずってんだろ。白石さんのことか?」

図星を突かれて言葉に詰まる僕を、彼はニヤニヤと見つめる。

「いいか、悠真。お前の敗因はただ一つ。考えすぎなんだよ。お前はいつもそうだ。恋愛を、まるで難解な論理パズルか何かと勘違いしてる。違うんだよ、恋ってのはもっとこう、バーン!と行って、ドーン!と砕けて、それでいいじゃねえか!」

「それができれば苦労はしないんだよ。状況は……もっと複雑なんだ」

僕の弱々しい反論を、拓哉は鼻で笑い飛ばした。そして、彼は身を乗り出し、その声のボリュームを一段階上げた。周りの学生が何事かとこちらを見るが、彼はまったく意に介さない。

「複雑? 複雑にしてるのはお前自身だろ、桜木悠真!いいか、よく聞け!お前はな、石橋を叩いて安全を確認するタイプじゃない。石橋を叩いて、叩いて、叩きすぎて、強度計算やら耐震設計やらを気にしてるうちに、日が暮れて、結局、橋を渡る前に寿命が尽きるタイプなんだよ!理論武装?笑わせるな!お前のは理論武装じゃなくて、理論で雁字搦めになってるだけの、ただの思考停止だ!」

彼の言葉は、マシンガンのように僕の胸に突き刺さる。彼の言葉遊びは、僕の独白とは対極にある、熱量と行動力に満ちた太陽の言葉だ。

「恋ってのはな、完璧な設計図通りに建つ豪邸じゃないんだよ!むしろ、行き当たりばったりのサバイバルキャンプみたいなもんだ!腹が減ったら、そこらへんの草でも食う覚悟で何か探す!雨が降ったら、葉っぱ集めて屋根を作る!完璧なプランなんて待ってたら、飢え死にするか凍え死ぬだけだ!『正しい選択』?そんなもんは後から歴史家が作るもんだ!目の前の『好きだ』っていう衝動、それこそが唯一の正解なんだよ!男は攻めてなんぼだろ!攻めろ!攻め続けろ!攻め倒せ!それでダメなら、そん時考えりゃいいだろうが!」

拓哉は言い切ると、ぜえはあと肩で息をしながら、満足げに席に深くもたれかかった。その豪快で、あまりにコミカルで、そしてあまりに的を射た助言に、僕は呆然とするしかなかった。ループを知らない彼だからこそ言える、無責任で、しかし力強い言葉。それが、幾重にも重なった僕の「過去の選択メモ」のページを、一枚、また一枚と、力強くめくっていくような気がした。

「……ありがとよ、拓哉」

僕がぽつりと呟くと、彼は「おうよ」とニカッと笑い、僕の背中をバシンと叩いた。

「ま、お前の初恋だ、俺が間接的にサポートしてやるよ。まずはその幽霊みたいな顔色、なんとかしろ!」

そう言って彼は、再び雑誌へと視線を落とした。張り詰めていた僕の心が、少しだけ和らいだ。彼の言う通りかもしれない。僕が求めているのは、完璧な解答じゃない。ただ、この純粋な想いを、不器用に、まっすぐに、ぶつける勇気だけなのかもしれない。

次のループが始まったら、試してみようか。この、猪突猛進という名の、無謀な選択を。

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