3話 竜の試練と古の盟約

# 第2幕 試練と真実の探求 ## エピソード2「竜の試練と古の盟約」 影の教団の暗躍と、ヴァレフォール復活の確信を得た僕らは、エルダーナ様の助言に従い「エテルナの森」の深奥へと足を踏み入れていた。木々の葉擦れの音は囁き声に聞こえ、踏みしめる苔は湿ったため息をつく。森全体が巨大な生き物で、僕らはその体内を進む寄生虫のような気分だった。エルダーナ様の「森はお前たちの心に応えるだろう」という言葉が、不気味に頭の中で反響する。

「おいカイト、こっちだ!道が開けてる!」 リュオンの猪突猛進な声が、僕の不安を断ち切るように響く。しかし、彼が指差す先は、数分前には茨で覆われていたはずの場所だった。 「待って、リュオン。罠かもしれないわ」 セフィラが冷静に制する。彼女の指先が古代文字の刻まれたアミュレットに触れると、淡い光が周囲の幻惑を打ち払った。リュオンが指した道はかき消え、代わりに足元に巨大な根が蛇のようにうねり出す。これが森の試練か。僕の臆病な心が、幻の道を見せたのだろうか。

夜になり、僕らはわずかな開けた場所で焚き火を囲んだ。揺らめく炎が、僕たちの疲れた顔を照らし出す。沈黙を破ったのはリュオンだった。 「ちくしょう、埒が明かねえ。こんな回りくどい試練、何の意味があるんだ。古の守護竜だかなんだか知らねえが、さっさと姿を現しやがれってんだ。俺の剣で、道がなけりゃ切り拓いてやる!」 「リュオン、あなたの気持ちはわかるわ。でも、力だけでは進めない。エルダーナ様が言っていたでしょう?この森は『古の盟約』そのものを見守る存在。試されているのは、力じゃなくて……きっと、私たちの心。特に、カイトさんのその身に宿る『星辰の欠片』が、どう応えるのかを見ているのよ」 セフィラの言葉は、いつも穏やかで、荒ぶる心を優しく撫でるようだ。彼女は僕に向き直り、その澄んだ瞳でじっと見つめてきた。 「カイトさん、怖がらなくていいの。あなたは臆病なんかじゃない。誰よりも優しくて、物事を多角的に見ようとする。その視点が、私たちにはない光なの。あなたがここにいるから、私たちはただの力任せな冒険者にならずに済んでいるのよ」 彼女はそう言うと、そっと僕の手に自分の手を重ねた。しっとりとした柔らかな感触と、薬草の香りが混じった彼女自身の甘い匂いが、僕の鼻腔をくすぐる。その瞬間、僕の胸を占めていた恐怖が、温かな信頼感へと溶けていくのを感じた。これが絆というものか。僕の居場所は、もうあの平凡だった日本にはないのかもしれない。

僕たちが進んだ先、霧が晴れるように視界が開けた場所には、巨大な祭壇のような岩棚があった。そして、その上に眠るように横たわる、山と見紛うほどの巨体。古の守護竜ドゥームヴェイル。鱗の一枚一枚が黒曜石のように鈍く輝き、閉じられた瞼の下で、世界の創生からの時が流れているかのようだった。僕たちが息を呑むと、その巨大な瞼がゆっくりと持ち上がり、溶かした黄金のような瞳が僕たちを射抜いた。 声はない。だが、直接脳髄を揺さぶるような思念が流れ込んでくる。それは問いだった。 『汝、星を宿す者よ。何を求め、何の為に力を欲する?』 僕の目の前に、幻が広がる。語り継がれる英雄が、魔王ヴァレフォールに剣を突き立てる場面。しかし、英雄の顔は悲しみに歪み、魔王の瞳からは一筋の涙がこぼれていた。これは、なんだ?伝承と違う。善が悪を討つ、単純な物語ではなかったのか? 「惑わされるな、カイト!」 リュオンが叫ぶ。だが、僕は動けなかった。この幻は、僕の心の奥底にある「正義」への疑念を映している。 「違う……俺が知りたいのは、ただ敵を倒す力じゃない!真実だ!なぜ英雄は悲しみ、魔王は涙したのか!『古の盟約』とは、一体誰を、何を縛るためのものだったんだ!それを知らずして、俺は剣を取れない!」 僕の魂からの叫びだった。臆病な僕が、初めて心の底から求めたもの。その叫びに呼応するように、胸の『星辰の欠片』が灼熱を帯びて輝き始めた。ドゥームヴェイルの黄金の瞳が、わずかに和らいだように見えた。

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竜の試練と古の盟約 - 『星屑を紡ぐ転生者』 - 誰でも作家life