第2話 旅路に潜む影
# 第2幕 試練と真実の探求 ## エピソード1「旅路に潜む影」
エテルナの森の夜は、俺がいた世界のそれとはまったく異質だった。静寂が支配するのではなく、無数の生命が発する微かな吐息と、星々の光が木々の葉を濡らす音で満たされている。まだ夜の帳が降りたばかりの頃、俺、カイトはエルダーナの住処の前で、これから始まる長い旅の準備を整えていた。
「カイト、ぼさっとするな。荷物は確かめたか?」
背後から声をかけてきたのは、腰に長剣を差したリュオンだ。彼の声にはいつものように、微塵の不安も感じられない。むしろ、未知への挑戦を前にして心が昂っているのが手に取るようにわかる。
「ああ、大丈夫。セフィラは?」 「あっちで薬草の最終チェックよ。あいつは本当にマメだよな」
リュオンが親指で示した先では、セフィラが革のポーチに丁寧に薬草を詰めていた。月明かりに照らされた彼女の横顔は真剣そのもので、その白い指先が一つ一つの薬草に確かめるように触れる様は、どこか神聖な儀式のようにも見えた。彼女のしなやかな動き、ローブの襟元から覗く白い首筋に、俺は不覚にも一瞬、目を奪われる。
やがて、準備を終えた俺たちの前に、エルダーナが静かに姿を現した。彼女は数百年を生きる賢者。その慈愛に満ちた眼差しは、俺たち三人の心の奥底まで見透かしているようだった。
「カイト、リュオン、セフィラ。これを持って行きなさい」
差し出されたのは、羊皮紙に描かれた古びた地図だった。
「この旅は、単に『星辰の欠片』の手がかりを探すだけのものではない。お前たちが耳にした村々の異変……その背後には必ず『影の教団』の蠢きがある。彼らはヴァレフォールの復活のため、世界の理を歪め、人々の恐怖を糧に力を蓄えている。それは断じて許されることではないわ。だが、覚えておきなさい。正義という刃は、時に自らを傷つける諸刃の剣でもある。何が真の悪で、何を為すべきなのか。お前たち自身の眼で、心で、見極めるのです」
エルダーナの言葉は、ただの忠告ではなく、重い問いかけだった。俺はゴクリと唾を飲む。
「俺に……そんな大層なことができるでしょうか。俺は、ただの……」 「臆病者か?」
リュオンが、俺の言葉を遮って言った。
「カイト、お前が何者だったかなんて、もう関係ない。俺は、理由もなく苦しむ人がいるのが許せないだけだ。村が魔物に襲われているなら助ける。教団とやらがそれを引き起こしているなら、叩き潰す。理屈はそれだけで十分だ。お前が持つ『星辰の欠片』の力が必要なら、俺がその力が振るえる場所までお前を連れて行ってやる。背中は任せろ。お前はお前の前だけを見ていればいい」
彼の真っ直ぐな言葉が、俺の心の霧を少しだけ晴らしてくれる。すると、セフィラがふわりと微笑みながら俺たちの間に入った。
「リュオンはいつも猪突猛進なんだから。でも、カイトさん。彼の言う通りよ。私たちは三人で一つのパーティでしょう?それに、古代都市の廃墟……地図に記された解読不能な文字……失われた歴史の謎を解き明かせるかもしれないなんて、私、少しワクワクしているんです。あなたの知識も、きっと私たちの助けになりますわ」
彼女の温かい声と、リュオンの揺るぎない信頼。そうだ、俺は一人じゃない。この二人と一緒なら、きっと。
「ありがとう、二人とも。行こう」
俺は覚悟を決めて頷いた。エルダーナに深く一礼し、俺たちは夜明け前の森へと歩き出す。幻想的な森を抜けた先には、どこまでも続く荒野と、世界の命運を賭けた、長く険しい旅路が待っていた。
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