第1話 星屑の導き
# 第1幕 異世界への召喚と目覚め ## エピソード1 星屑の導き
土の匂いと、むせ返るような濃い緑の匂いで意識が浮上した。瞼の裏でちらつく光は、馴染みの自室の蛍光灯ではない。ずきり、と後頭部に走る鈍い痛み。最後に覚えているのは、けたたましいクラクションの音と、アスファルトに叩きつけられる衝撃……だったはずだ。
「……う……」
呻きながら目を開けると、視界いっぱいに広がるのは、見たこともない巨大な木々の葉が幾重にも重なった天蓋だった。隙間から差し込む光は淡い紫色を帯びていて、空気を奇妙な色に染めている。
「……俺は、藤原快斗。ただの大学生だったはずなのに、なんでこんなところにいるんだ?」
掠れた声で呟いた言葉は、しんとした森に虚しく吸い込まれていった。体を起こし、周囲を見渡す。そこは鬱蒼とした森の中だった。足元には湿った腐葉土が積もり、自分の着ているパーカーとジーンズは泥と草で見るも無惨に汚れている。これは夢じゃない。頬をつねれば痛いし、肌を撫でる風の湿り気はあまりに生々しい。
何が起きた?事故に遭って、誰かがここまで運んでくれたのか?いや、だとしたら何故こんな森のど真ん中に?それに、あの空に浮かんでいるのはなんだ?見上げると、そこには不気味なほど大きな二つの月が、静かに浮かんでいた。
背筋がぞくりと冷える。理解が追いつかない。パニックになりそうな頭を必死で抑えつけ、俺は立ち上がった。とにかく、ここがどこなのか確かめなければ。その時、胸の奥に微かな、しかし確かな熱を感じた。まるで小さなカイロでも仕込んでいるかのような、不思議な温かさだ。なんだ、これは。心臓の鼓動とは違う、別の何かが俺の中で脈打っているような、気味の悪い感覚だった。
ガサリ、と背後の茂みが大きく揺れた。振り返った俺の目に飛び込んできたのは、到底この世の生き物とは思えない異形の獣だった。軽自動車はあろうかという巨体に、背からは水晶めいた鋭い棘が無数に突き出している。赤く爛々と輝く双眸が、明確な敵意をもって俺を捉えていた。
「ひっ……!」
喉から引きつった悲鳴が漏れる。本能が警鐘を鳴らし、俺は考えるより先に駆け出していた。もつれる足で、ただがむしゃらに。だが、獣の速度は圧倒的で、地を揺るがす足音は瞬く間に背後へと迫る。木の根に足を取られて無様に転倒し、俺は死を覚悟した。巨大な影が俺を覆い尽くし、獣の牙が目の前に迫った、その刹那――。
世界が、まばゆい閃光に呑まれた。
恐る恐る目を開けると、俺と獣との間に、いつの間にか一人の女性が立っていた。風もないのに銀色の長い髪が揺れ、夜空を溶かし込んだような深い瞳が、静かに獣を見据えている。彼女が携えた杖の先が淡く輝くと、獣は断末魔の叫びを上げる間もなく光の粒子となって霧散した。あまりに幻想的で、圧倒的な光景だった。
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