第4話 星屑の幕開け
# 第3幕 運命の対決と新たな世界の幕開け ## エピソード1「星屑の幕開け」
「おい、カイト、そろそろ起きろよ。講義に遅れるぞ!」
懐かしい声が、微睡みの淵から俺を揺り起こす。重い瞼をこじ開けると、見慣れた天井が目に飛び込んできた。ベッドサイドのデジタル時計が点滅し、壁には読みかけの専門書が並ぶ本棚。窓の外からは、けたたましい朝の喧騒が聞こえてくる。ここは、俺の部屋だ。藤原快斗の、六畳一間のアパート。
「……講義?」
そうだ、今日は二限から経済学史の講義があったはずだ。身体を起こそうとして、俺は自分の右手に奇妙な違和感を覚えた。指の付け根から手のひらにかけて、分厚く硬い感触がある。まるで、ずっと剣の柄でも握りしめていたかのような。そして胸の奥、心臓のすぐ隣で、もう一つの鼓動が静かに、しかし力強く脈打っている。これはなんだ? 星屑の……。
「カイト、聞いてるのか? 先に行くぞ!」
ドアの向こうから、また声がする。大学の友人、佐藤の声だ。彼の呆れたような口調が、俺を現実へと引き戻そうとする。だが、俺の心は二つの世界の狭間で引き裂かれていた。この安穏とした日常と、血と鉄の匂いがする、あの過酷な旅路。リュオンの背中、セフィラの祈り、エルダーナの厳しくも優しい眼差し。そして、ヴァレフォールの禍々しい影。
「俺は……俺は、もう……」
唇から、か細い声が漏れた。このまま夢の中にいられたら、どれだけ楽だろう。平凡な大学生、藤原快斗として、退屈な講義を受け、仲間と笑い合う。そんな日々に戻れたなら。だが、脳裏に焼き付いて離れない光景がある。モンスターに怯える村人たちの顔、影の教団に踏みにじられた聖域、そして俺を信じて剣を構える仲間の姿。
「俺はもう、藤原快斗じゃない。俺の名はカイトだ。この世界で出会った仲間たちと共に、果たさなければならないことがある。俺の帰る場所は、もうここじゃないんだ!」
俺は虚空に向かって叫んだ。その瞬間、部屋の風景がガラスのようにひび割れ、粉々に砕け散っていく。友人の声は断末魔のようなノイズに変わり、温かい日差しは、冷たく湿った石の感触へと変貌した。
目を開くと、そこは影の教団の拠点、薄暗い地下通路だった。隣では、リュオンが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。少し離れた場所で、セフィラが祈るように手を組んでいた。彼女の長いまつげが微かに濡れているのを見て、胸が締め付けられる。
「カイト、大丈夫か? すごくうなされていたぞ。何かの精神攻撃かもしれない」
リュオンの力強い声が、俺の意識を完全に覚醒させる。俺はゆっくりと身体を起こし、二人の顔をまっすぐに見つめ返した。
「ああ、大丈夫だ。ただ……懐かしい夢を見ていただけさ。もう迷いはない。行こう、ヴァレフォールを止めるんだ」
俺の目には、もう臆病な大学生の光はなかった。胸に宿る「星辰の欠片」が、決意に呼応するかのように、確かな熱を放っていた。
← 横にスクロールして読み進められます
