第6話 商店街の女

二つ目の宛先へ向かう電車は、一つ目の町へ行ったときよりも長く揺れた。

車窓に流れる景色は、途中から山がちになり、トンネルを抜けるたびに空の色が変わった。曇天の隙間から薄い光が差し、田んぼの畦道に長い影を落としている。私は手帳を開き、昨日老婆から聞いた言葉をもう一度読み返した。

返事が来ない理由を、耐えられる形にする。

その下に、見覚えのない筆跡で「まだ一枚目」と書かれている。自分の字によく似ているのに、どこか違う。似ているからこそ、違いがはっきりと分かる。私はその一行を指でなぞり、そのまま手帳を閉じた。考えすぎている、と自分に言い聞かせても、指先の冷たさは消えなかった。

県境の駅で降りると、空気の湿り気がさっきまでと違っていた。山からの水を集めてきたような、少し甘い匂いが鼻先をかすめる。商店街は駅前からまっすぐに伸びていて、古いアーケードの骨組みがところどころ錆びて赤茶けていた。シャッターの下りた店と、まだ営業している店が、歯の抜けた口のように交互に並んでいる。

夕方に近づくにつれ、人通りは目に見えて減っていった。魚屋の店先では、発泡スチロールの箱に積まれた氷が溶けかけ、生臭さの混じった水が側溝へ流れ込んでいる。揚げ物屋の換気扇からは、古い油の匂いが絶え間なく漂い出て、商店街の空気全体を重たくしていた。

私は祖母の名前を、一軒ずつ尋ねて歩いた。

反応は、どこも似ていた。店主たちは一瞬、手を止める。レジを打つ指が止まり、惣菜を並べる手が止まり、新聞をめくる音が止まる。その止まり方には、覚えている者の間と、思い出したくない者の間と、二種類あるように感じられた。けれどどちらも、長くは続かない。すぐにまた手を動かし始め、「さあ」「昔のことだから」「もう何年も前のことだし」と言って、視線を短く外す。

その中で、文具店だけが違った。

店の奥、帳場に座っていた初老の女が、祖母の名前を聞いた途端、帳面につけていたペン先をぴたりと止めた。

「毎月のように来ていたよ、あの人は」

女は顔を上げずに言った。老眼鏡の奥の目が、帳面の文字を追うふりをしたまま、実際には何も読んでいないのが分かった。

「いつ頃のことですか」

「さあ。うちは長いからね。何年も前から、季節が変わるたびに姿を見せた。雨の日でも、来るときは必ず来た」

「何をしに来ていたんでしょうか」

女の手が、帳面の上でわずかに震えた。ペン先が紙に押しつけられたまま、文字は書かれない。インクがわずかに滲み、紙の繊維に沈んでいく。私はその滲みを見ながら、彼女が今、言葉を選んでいるのではなく、言葉を飲み込もうとしているのだと感じた。

「お客さんじゃなかったんですか」

「お客さんだったよ。葉書を何枚も買っていったから」

「葉書」

その一言に、私の胸の奥で何かが軽く鳴った。叔父の言葉、老婆の言葉、母の沈黙。それらがばらばらに散らばっていたものが、この商店街の、この帳場の上で、初めて具体的な形を取り始めた気がした。

「どんな葉書ですか」

「無地のだよ。うちで一番安い、何も印刷のない葉書」

女はそこで初めて顔を上げた。老眼鏡の奥の目は、私の顔ではなく、私の手元――手帳を持つ指の方を見ていた。

「あんた、持ってるんだろう」

「何をですか」

「同じ葉書を」

私は答えなかった。答えなかったことが、もう答えだった。女は小さく息を吐き、ペンを帳面の上に置いた。長い指が、ペンの軸をゆっくりと撫でる。

「あの人はね、来るたびに、同じ本数を買っていった。多いときも少ないときもなく、いつも同じ」

「何枚ですか」

女は私を見た。その目には、好奇心をたしなめるような、同時に哀れむような、二つの光が同居していた。

「三枚だよ」

部屋の奥で、古い換気扇が低く唸る音がした。私は喉の奥が狭くなるのを感じながら、次の言葉を探した。

「その三枚を、誰に出していたか、ご存じですか」

女はそこで、初めて明確に目を逸らした。帳面の文字を追うふりをやめ、今度は店の外、アーケードの向こうに傾いていく夕陽の方へ視線を向ける。

「知らないよ。知っていたとしても、言う筋合いじゃない」

「言う筋合い、というのは」

「あの人が、言わなかったことだからだよ」

その言い方には、拒絶というより、何か誓いに似た硬さがあった。私はそれ以上押せなかった。押せば、彼女がこれまで守ってきた何かが、私の手の中で崩れてしまう気がしたからだ。

「あの人は、元気にしているのかい」

女が、唐突に尋ねた。質問というより、確かめるような口調だった。私は一瞬、何と答えればいいか分からなかった。四十九日が明けたばかりだということを、この女はまだ知らない。

「亡くなりました。先月、四十九日を終えたところです」

女の手が、帳面の端を強く握った。紙が小さく波打つ。彼女は何も言わず、ただ長い間、黙って帳場の木目を見つめていた。やがて、独り言のように呟いた。

「そうかい。じゃあ、もう来ないんだね」

その声には、安堵とも失望とも取れる響きがあった。私はその両方が同じ人間の中に共存できることを、このとき初めて理解した気がした。

「あの三枚は、届いたんでしょうか」

女は答えなかった。ペン先を帳面に戻し、また何かを書き始める。その動きは、もう私のための会話ではなく、私を会話から締め出すための儀式のようだった。

「もう店を閉める時間だから」

それが最後の言葉だった。

私は礼を言い、店を出た。シャッターを下ろす金属音が、背中で響く。振り返ると、女はこちらを見ていなかった。帳場の灯りだけが、ガラス越しに薄く漏れていた。

アーケードの外へ出ると、夕暮れの光が斜めに差し込み、古いタイルの床を白く照らしていた。人通りはほとんどなく、どこかの店から流れるラジオの音だけが、通りの端から端まで届いている。私はその白さの中を歩きながら、聞けば聞くほど空白が増えていく感覚に苛立った。

祖母は、毎月のようにここへ来ていた。三枚の葉書を買い、三枚とも出さずに持ち帰った。あるいは、出したけれど返事が来なかった。どちらなのか、まだ分からない。会っていた相手は誰なのか。何を待っていたのか。返事を、一度でも受け取ったことがあったのか。

商店街の端にあるベンチに腰を下ろし、手帳を開いた。

「毎月」と書き、その下に線を引く。もう一度引く。三本目を引いたところで、ペン先が止まった。

線を引くほど、言葉は薄くならず、むしろ沈んでいく。紙の繊維の奥へ、祖母の足音が吸い込まれていくように。

ふと顔を上げると、文具店のシャッターはすでに完全に下りていた。けれどガラスの隙間から漏れていた灯りだけが、まだ消えずに点っている。誰もいないはずの店の奥で、その小さな光だけが、何かを待つように揺れていた。

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商店街の女 - 消えた三通 - 誰でも作家life