12話 解放と誓い、そして絆

アキラの告白が、星屑のきらめく終着駅に静かに溶けていく。まるで世界から音が消えたかのような沈黙の中、最初に動いたのは暦だった。

「……あ……ぁ……」

か細い声が、こらえきれずに唇から漏れる。彼女の瞳から大粒の涙がとめどなく溢れ、その場に膝から崩れ落ちた。何年も、何年も心の奥底に押し込め、決して開けてはならないと鍵をかけてきた記憶の箱。それが今、弟自身の言葉によって、内側から優しく開けられたのだ。

「ごめんね……アキラ……ごめんね……!」

嗚咽と共に繰り返される謝罪は、誰に聞かせるためでもない、彼女自身の魂の叫びだった。光の粒子でできた弟の幻影にすがりつくように、暦は泣きじゃくった。あの日、霧の中で離してしまった小さな手。自分だけが現実に戻ってきてしまった罪悪感。その重い枷が、「僕がここにいたかったんだ。だから、お姉ちゃんはもう自分を責めないで」という、あまりにも優しく、そして切ない真実によって、音を立てて砕け散っていく。解放は、あまりに激しい痛みを伴って彼女の心を洗い流していった。

その光景を、相葉湊は息を詰めて見つめていた。ただ流されるまま、自分の意見も言えずにこの旅についてきた自分が、この奇跡の瞬間の、重要な鍵だった。繰り返し見た夢も、祖父のコンパスも、全てはこの瞬間のためにあった。自分は傍観者じゃない。誰かの心を救うために、ここに呼ばれたんだ。その悟りは、静かだが確かな熱となって湊の胸を満たしていく。彼は一歩前に出ると、泣きじゃくる暦ではなく、その向こうで悲しげに微笑むアキラに向き直った。

「アキラ君。君が暦さんを、僕たちを、どれだけ強く想っていたか、ちゃんと届いた。君が一人で抱えていた寂しさも、お姉ちゃんを心配する優しさも、全部僕たちが受け取った。君が僕の夢に現れて、この線路に導いてくれたんだろう? だから、今度は僕らの番だ。君が愛したお姉さんのことは、もう大丈夫。僕たちがいる。ここにいるみんなが、これからは暦さんを支える。だから、安心してほしい。君の想いは、決して無駄になんかならない。僕たちが、この夏を、君のことを、絶対に忘れないから」

それは、今まで聞いたこともないほど、力強く、迷いのない湊の声だった。

隣で固まっていた新田樹は、目の前で起きている出来事を、必死に自分の知識体系に落とし込もうとしていた。集団幻覚、心理的同調、燐光現象……しかし、どんな言葉を並べても、姉を想う弟の「魂」が時空を超えて仲間を呼び寄せ、長年の呪縛を解き放つという、このメルヘン的で、あまりに非科学的な奇跡を説明することはできなかった。彼は固く握りしめていたスマホを、そっとポケットにしまった。

「……非合理的だ。非合理的すぎて、逆に一周回って合理的と言うしかないな、これは」

ぶっきらぼうに呟くと、樹は泣き続ける暦の隣にそっと膝をつき、その震える肩を無言で支えた。それは、彼がこれまで決して取らなかったであろう、他人の痛みに寄り添うという、初めての行動だった。

重苦しくも神聖な空気を吹き飛ばしたのは、長谷川陽太の、太陽のような声だった。

「よかったな、暦ねーちゃん! もう泣くなよ! 友達が笑ってるのが、一番だぜ!」

難しい理屈は、彼にはわからない。けれど、ずっと悲しい顔をしていた従姉が、今、心の底から泣いていること。そして、その涙が悲しいだけの涙ではないことは、彼の純粋な心にはっきりとわかった。陽太の屈託のない笑顔が、この幻想的な空間に、温かな現実の光を差し込ませる。

その瞬間、確かに四つの心は一つになった。年に一度しか会わない、他人行儀な親戚。価値観も性格もバラバラだった彼らが、一人の少年の「想い」を通じて互いの痛みを知り、弱さを受け入れ、固い絆で結ばれたのだ。それは、この忘れじの線路がもたらした、最高の奇跡だった。

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解放と誓い、そして絆 - 夏草の海と、線路の先に - 誰でも作家life