7話 床下の帳簿

時計の針が四時を回った。

布団の中で、私は暗い天井を見つめていた。腕時計の秒針の音だけが、やけにはっきりと耳に届く。眠っていたのか、眠っていなかったのか、自分でも判別がつかない浅い時間を、私はただ横たわって過ごしていた。祖母の日記と、経机の引き出しから拾い出した木札と紙包みは、枕元にまとめて置いてある。夜のあいだ、それらは一度も動かなかった。動かなかったことが、むしろ落ち着かなかった。

起き上がり、革表紙の日記と布包みを両手で抱え、私は座敷を出た。廊下は昼間よりも狭く感じられる。足を踏み出すたび、床板が沈み、沈むたびに家全体が息を吐くように鳴った。祖母が生きていたころ、この時間に廊下を歩いても、床は鳴らなかったはずだ。祖母の足取りには無駄がなく、板の軋む場所を知り尽くしていた。私はその歩き方を真似ようとしたが、うまくいかなかった。

仏間に入り、経机の前に膝をつく。板の継ぎ目を指で探ると、一枚だけ他より浮いている場所があった。祖母の手癖なら、隠すために隠すことはしない。見つからないようにしながら、見つけた者が手順を辿れるように、道具は置かれる。私は懐中電灯を口にくわえ、爪先を隙間に差し込んで、その一枚を持ち上げた。

土の匂いが、冷えた木肌の隙間から立ちのぼった。

床下には、麻紐で束ねられた木札がいくつも並び、紙包みが等間隔に整えられていた。結び目はどれも同じ形をしている。きつすぎず、ゆるすぎず、ほどく者の指を切らないように作られた結び方だった。私は懐中電灯の灯りを頼りに、包みを一つずつほどいていく。塩。髪のように細い糸。乾ききった土。指先に残るざらつきが、これがただの保管ではないことを教えてくる。何かを納めた痕跡ではない。何かが入ってこないように積み重ねられた、毎晩の作業の痕だった。

最後の紙包みの底から、小さな鉛筆の欠片が転がり出た。

短く、削り切られた古い芯。私はそれを手のひらにのせ、日記の余白に書かれていた祖母の字を、もう一度読み直した。

亡き夫が使っていた短い鉛筆。

道具を捨てず、使い切り、折れた芯まで包んで床下に埋める。祖母のその癖を、私は長いあいだ、ただの倹約か潔癖の類だと思っていた。だが違う。祖母は、失われたものを失われたままにしなかった。使い切ったものにも役目を与え、名前を持たない痛みにも場所を用意した。それは信仰でも迷信でもなく、生活そのものの延長だった。誰にも見せない場所で、誰にも言わない手順で、祖母は十年、家族の分まで恐怖を引き受けていたのだ。

私はその几帳面さが、ようやく愛情の別の形だったことに気づいた。言葉にすれば崩れてしまう何かを、祖母は言葉にせず、数え切れない手順の中に溶かし込んで、私たちに渡していた。渡された側は、それを愛情だと知らずに受け取っていた。

「玲司」

背後で声がした。

振り返ると、母が戸口に立っていた。寝巻きの上に薄い羽織を重ね、腕を抱くように前で組んでいる。

「見つけたのね」

「見つけたというより、開けた」

「同じことよ」

母は座敷の敷居をまたぎ、床下の縁に膝をついた。木札を一枚手に取り、灯りへかざす。指先が触れても、母は今度は叫ばなかった。ただ、長く息を吐いた。

「しのさんが、これをどこに隠しているか、私は知らなかった」

「知らなかったのに、驚かないんだな」

「知らなくても、あるはずだと思っていたから」

母はそう言って、木札を元の位置へ戻した。丁寧に、間隔を乱さないように。

「あなたに聞かれたくて、話すわけじゃないの。でも、ここまで来たなら、聞いてもらったほうがいいと思う。しのさんは、代償を払っていた」

「代償」

「向こうが何かを持っていく代わりに、しのさんは何かを差し出していた。それが塩だったのか、糸だったのか、時間だったのか、私には分からない。でも、渡さなければ、次の朝を迎えられなかった。しのさんはそれを知っていて、十年、毎晩、渡し続けた」

「渡していたのは、物だけじゃないんだろう」

母は答えなかった。答えないことが、答えだった。

「母さんは、それを見ていたのか。渡すところを」

「一度だけ」

母の声が、初めて低く落ちた。

「しのさんが、自分の指から、小さな爪の欠片を切り取って、包みに入れているのを見た。理由は聞けなかった。聞いたら、私も同じことをしなければならない気がしたから。私は逃げた。爪の代わりに、あなたを連れて逃げた」

私は木札の裂け目に残った、祖母の筆跡を見つめた。細く、しかし深く刻まれた線は、日付のように見えた。目を凝らすと、それは間違いなく日付だった。十年前の九月二十一日。日記の最初の頁と、ぴたりと重なる夜だった。

「この日付、覚えているか」

母はそれを見て、しばらく黙っていた。

「その日、あなたの父が、まだ生きていた」

私は手を止めた。

「父さんが、何かしたのか」

「した、というより、しなかった。夜半に声がして、返事をしそうになったところを、しのさんが止めた。止めたけれど、間に合わなかった部分があった。翌朝、あなたの父は、指の先を一本、うまく動かせなくなっていた。病院では神経の問題だと言われたけれど、しのさんは違うと思っていた。渡さなければならないものが、渡されてしまったのだと」

私は膝の上の鉛筆の欠片を、強く握った。

「それでも、母さんは黙っていたのか」

「黙っていた。黙っていれば、その日は終わったことにできたから」

母は木札の並びをもう一度見て、静かに言った。

「玲司。私はあなたに、ここで何も見つけてほしくなかった。でも、もう見つけてしまった。だったら、私にできることは、あなたが独りで進まないようにすることだけよ」

私は床下の奥へ、懐中電灯の光を向けた。木札の背後、古い土を敷いたさらに奥に、細い溝のような通り道がある。そこから、風とも呼べない湿り気が、引いては寄せてくる。井戸の方角だった。家の中心へ向かって、息のようなものが、規則正しく満ちては引いていた。

布包みを胸に抱えたまま、私はしばらく動けなかった。祖母が渡し続けたものの正体を、まだ言葉にできない。だが、渡さなければ朝が来なかったという事実だけは、もう疑えなかった。

「母さん、これから井戸へ行く」

「知ってる」

「止めないのか」

「止めても、行くでしょう」

母は木札の一枚を、私の手のひらに置いた。祖母の筆跡で「し」とだけ書かれた、あの札だった。

「持っていって。渡すものが要るときのために」

私はその木札を握った。冷たさが、指の芯まで届いた。井戸の方角から届く湿った息が、いつもより近く感じられた。

十年分の日記のはじまりと重なる日付が、私の背中を押している。

もう戻る道はないのだと、私はそのとき初めて、腹の底で理解した。

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