11話 愚者の末路

# 第3幕 終末の寓話 ## エピソード2 愚者の末路

ホワイト宮殿の最上階、王の間は過剰なまでの黄金色に輝いていた。天井から吊るされた巨大なシャンデリアは、それ自体が小国の国家予算に匹敵するほどの宝石で飾られ、床に敷かれた深紅の絨毯は、一歩踏みしめるごとに権力の甘美な感触を足裏に伝えてくる。ここはコメ国の心臓部であり、そして世界の富が最も愚かしい形で凝縮された場所でもあった。

その中心で、玉座にふんぞり返ったタコ王は、目前に広げられた分厚いメニュー表を、まるで読めない聖典でも眺めるかのように睨みつけていた。彼の王位就任一周年を記念するレセプションは、明日に迫っていた。しかし、その議題は国際情勢でも、国民の福祉でもない。ただひたすらに、饗宴の献立についてであった。

「パンス、これはどういうことだ。このキャビアの項目を見ろ。『最高級品を適量』だと? 適量とはなんだ! 私の偉大さを測る単位に『適量』などという貧相な言葉が存在すると思うのか!」

タコ王はメニュー表を床に叩きつけた。腹心のパンスは、その足元に這いつくばるようにしてメニューを拾い上げ、脂汗を滲ませた顔で媚びへつらう。 「は、ははっ! まことに王のおっしゃる通りでございます! 適量などという曖昧な表現、王の輝かしい治世には全くもってふさわしくございません! 直ちに修正させます! では、どのくらいの量を……」

「決まっているだろう! バケツだ! 黄金のバケツに山盛りだ! 客人がスプーンですくうのではない、シャベルで自分の皿にかけるのだ! フォアグラもそうだ! なぜ薄切りにする必要がある? ステーキのように厚切りにして、それを何枚も重ねるのだ! 食べきれずに残すのが礼儀、それがコメ国の豊かさの証明ではないか!」

タコ王は興奮して立ち上がり、部屋を歩き回りながら演説を始めた。その言葉は支離滅裂であったが、彼の自己中心的な宇宙の中では完璧な論理で構成されていた。 「いいか、諸君! この一年、私がどれほどの偉業を成し遂げたか、忘れたわけではあるまいな! 邪魔だったエロンを追放し、気に食わん大学の予算を削り、世界中にコメ国の偉大さを示してきた! 私のトゥイトゥアーの一言で株価が動き、私の気まぐれ一つで国境線が揺らぐのだ! これほどの力を持った王が、歴史上存在したかね? 否! 断じて否だ! このレセプションは、その歴史的偉業を祝うための祭典なのだぞ! 料理の一品一品が、私の功績を称える賛歌でなければならん! わかったか! ケチな根性を出すな! コメ国の富は無限なのだ! 私がいる限りな!」

側近たちは「おお……」と感嘆の声を漏らしながらも、その目は死んだ魚のように淀んでいた。彼らの頭に浮かぶのは、王の愚行によって引き起こされた国際社会の混乱であり、SNSに溢れる自国リーダーへの嘲笑であり、日に日に増していく国民の絶望的な溜息であった。だが、それを口にすることは許されない。この国では、真実を語ることは王への反逆を意味するのだ。反知性主義という名の甘美な毒は、権力の中枢から末端までを完全に蝕んでいた。

パンスだけが、心からの恍惚とした表情で王の言葉に聞き入っていた。 「さすがでございます、タコ王! その深遠なるお考え、このパンス、感服いたしました! キャビアの量は国の威信であり、フォアグラの厚みは王の知性の深さ! まさに至言! 歴史に残る名言でございます!」

「うむ。お前はよくわかっているな」

満足げに頷いたタコ王は、再び玉座に腰を下ろした。彼はふと、巨大な防弾ガラスの窓の外に目をやった。眼下には、宝石を撒き散らしたように広がる首都の夜景。それは彼が支配する世界の象徴であり、彼の自己愛を無限に満たしてくれる美しい光景のはずだった。

その時、夜空の一点に、奇妙な光が灯った。 「おや、流れ星か? 私の祝賀会を、天も祝ってくれているようだ」

タコ王は得意げに鼻を鳴らした。光は、しかし消えることなく、むしろ急速に大きさを増してくる。それは流星にしてはあまりにも直線的で、明確な意志を持ってこのホワイト宮殿を目指しているように見えた。側近の一人が、血の気の引いた顔で窓に駆け寄る。

「あれは……まさか……」

巨大な影が、夜空を切り裂いて迫りくる。それは瞬く間にその姿を現した。鈍色に輝く、長大な円錐形。紛れもない、大陸間弾道ミサイルであった。 タコ王は、呆然と立ち尽くした。恐怖よりも先に、彼の幼稚な脳を支配したのは純粋な好奇心だった。なんだ、あれは。私の許可なくコメ国の上空を飛ぶとは、不届きな。

ミサイルは、まるでスローモーションのように眼前に迫る。その巨大な胴体には、スプレーで殴り書きされたかのような、粗雑で、しかしはっきりと読み取れる文字が書かれていた。

`MADE IN KOME`

その文字を認識した瞬間、タコ王の思考は完全に停止した。コメ国製。自分が、金儲けのために、倫理観など微塵も感じることなく、あの被害妄想の塊であるニタニタフに売りつけた兵器。あの時、電話口で冗談めかして言った言葉が脳裏に蘇る。「そちらのミサイルはちゃんと作動するのか? 試しに打ってみろよ」。

皮肉。風刺。ブラックユーモア。そんな言葉では到底表現しきれない、純粋で絶対的な世界の摂理が、今、彼の目の前に突きつけられていた。自らの愚かさが、物理的な質量と速度を持って、自らを滅ぼしにやってきたのだ。

ミサイルの先端が、禍々しく、しかしどこか美しく輝いた。 タコ王は、声も出せずに、ただそれを見つめていた。その表情には、恐怖も、絶望も、後悔もなかった。ただ、理解を超えた事象を前にした子供のような、無垢な呆然とした顔があった。

次の瞬間、世界から、音と色が消えた。 純白の閃光がすべてを呑み込み、コメ国は、その愚かな王と共に、地図の上から跡形もなく消滅した。 それは、人類が自ら選んだリーダーによって自らを滅ぼすという、壮大で滑稽な悲劇の、ほんの始まりに過ぎなかった。

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