1話 ホワイト宮殿の茶番劇

# 第1幕 愚者の戴冠 ## エピソード1 ホワイト宮殿の茶番劇

コメ国が世界一豊かであることに、異を唱える者はいなかった。その富の象徴であるホワイト宮殿は、今日、歴史上最も贅沢で、そして最も滑稽な茶番劇の舞台となっていた。新王、タコ王の戴冠式である。磨き上げられた大理石の床は、天井から吊るされた無数のシャンデリアの光を反射し、まるで光そのものでできた川のようだ。壁という壁は金箔で覆われ、歴代の王たちの肖像画が、この日の狂騒を苦々しい表情で見下ろしている。

しかし、その荘厳さは、ホールに充満する異様な熱気と下卑た欲望の前では、まるで安物の舞台装置のように色褪せていた。集まったのは、コメ国の新たな支配者層、オリガルたちである。彼らは、法整備が追いつかない「新フロンティア」という名の無法地帯を暴力と狡知で荒らし回り、富を築き上げた現代の盗賊たちに他ならない。コメ国が元々は盗賊たちが寄り集まってできた国であるという歴史は、決して過去の物語ではなく、今なおこの国の根幹を成す生々しい現実であった。その歴史の残滓が、高価な香水の匂いに混じって、澱のようにこの場の空気に漂っていた。

オリガルたちは、まるで檻から放たれた獣の群れだった。彼らは互いの身につけた宝飾品や時計の値段を値踏みし、買収した政治家の数を自慢し合い、下品な冗談に喉を震わせて笑った。その中の一人、電気自動車と宇宙開発で名を馳せたエロンは、ひときわ異彩を放っていた。麻薬中毒で常に瞳孔が開いた彼の目は、シャンデリアの光を捉えて不気味に輝き、焦点が合っていない。彼は誰に話しかけるでもなく、「宇宙…意識はデータ化され、星々の間を漂う…タコは…偉大なる知性の象徴…」などと意味不明な言葉を呟きながら、音楽に合わせて奇妙なダンスを踊っていた。彼の周囲には、モデルのような十数人の妻たちが、表情を消して侍っている。それが彼の富と権力の、何より雄弁な証だった。

「見ろよ、エロンの奴、またキマってるぜ」 「だが、奴が一番タコ王に貢いだらしい。黄金でできたタコ王の像を贈ったとか」 「ハッ、くだらん。俺は奴の選挙区の票を丸ごと買ってやった。実弾が一番効くのさ」 「新フロンティアの規制緩和さえ通してくれりゃ、あんなタコ、王だろうが神だろうがどうでもいい」

彼らの会話に、国を憂う言葉などひとかけらもない。あるのは自己の利益と、他者を蹴落とすことへの飽くなき渇望だけだ。これが、反知性主義という病が蔓延したコメ国の権力構造の縮図であった。人々は、複雑な政策や知性的な議論に疲れ果て、単純明快なスローガンと奇矯なパフォーマンスを繰り返す者に熱狂した。その結果として選ばれたのが、タコ王だったのだ。

ファンファーレが鳴り響き、主役が登場する。短い手足を懸命に動かし、胸を張ってレッドカーペットを歩いてくるその男こそ、新王タコ王であった。八十歳手前の彼の顔は、自信と万能感で紅潮している。IQが恐ろしく低いことは、彼と数分話せば誰にでも分かったが、本人は自らを歴史上最も優れたインテリだと信じて疑っていなかった。彼の隣には、腹心のパンスが、まるで王の威光を浴びて輝く月のように、媚びへつらいの笑みを浮かべて付き従っている。

玉座にたどり着いたタコ王は、満足げに周囲を見渡し、演説を始めた。その声は、拡声器を通じてもなお、奇妙に甲高く、威厳とは程遠い。

「諸君! 我が、偉大なる、そう、コメ国の、新しい王である! 俺は、非常に、ものすごく、インテリジェンスだ! だから分かる! この国は、もっとグレートにならねばならん! 俺が、このコメ国を、ナンバーワンの、その、ベストな国にする! 難しいことは分からん! だが、俺は正しい! なぜなら俺は王だからだ!」

支離滅裂。意味不明。幼稚な自己肯定。しかし、ホールを埋め尽くしたオリガルたちは、割れんばかりの拍手喝采を送った。彼らにとって、王の知性などどうでもよかった。むしろ、操りやすい愚か者の方が都合が良い。パンスがすかさず叫ぶ。 「陛下! なんと明快で、なんと力強いお言葉! これぞ、我々が待ち望んでいた真のリーダーシップでございます!」

その声に呼応するように、オリガルたちの熱狂はさらに増していく。この光景を、宮殿の外で、巨大なスクリーンを通して見つめる国民たちもまた、熱狂していた。「そうだ、難しいことは政治家に任せればいい!」「タコ王ならやってくれる!」という声が飛び交う。知性を放棄した社会の、恐ろしくも滑稽な祝祭がそこにあった。

戴冠の儀式が終わり、狂乱の宴が始まった。タコ王は上機嫌でオリガルたちの間を練り歩き、彼らの賞賛の言葉に得意満面で応えている。その時、エロンがぬるりとした動きでタコ王に近づいた。その手には、紫色のベルベットに包まれた奇妙な物体が載せられている。

「陛下。我が王への忠誠の証として、これを。我が社のロケットが火星より持ち帰った『賢者の石』でございます。これを持つ者は、宇宙の真理を手にすることができると伝えられております」

エロンは、血走った目でそう言った。それは道端に転がっているただの石ころに紫色のペンキを塗っただけのものであったが、タコ王はそれを疑いもしなかった。

「おお! 火星の石! 素晴らしい! エロン、お前はやはり分かっているな! お前のような、サイエンスの分かる男こそ、我が政府に必要だ! よし、お前に新しい仕事をやろう! そうだ、『政府とかをぶっ壊す省』、DODGEの長官にしてやる!」

「ははーっ! 身に余る光栄に存じます!」

エロンは深く頭を下げた。その顔には、薬物によるものではない、純粋な狂気と計算高い笑みが浮かんでいた。 こうして、愚者の戴冠式は、国家の重要ポストがただの石ころと引き換えに決められるという、前代未聞の茶番劇をもってその頂点を迎えた。シャンデリアの光が乱反射するホールで、オリガルたちの醜い饗宴は夜更けまで続いた。誰も気づいていない。この戴冠式が、ただの国の始まりではなく、世界の終わりの始まりを告げるファンファーレであったことなど。ホールの片隅で給仕をしていた少年が、その光景を冷え切った目で見つめ、「なんで大人は、こんなにバカなんだろう」と呟いた声を、狂騒の中にいる誰一人が聞き取ることはなかった。

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