10話 番台の底

月曜の朝、図書室の郵便受けにはいつもと違う重さの封筒が入っていた。

厚みは薄い。だが指先で角を確かめると、中に硬いものが一枚だけ入っている感触があった。切符か、それに似た紙片。消印は先週と同じようにかすれていたが、宛名の文字には見覚えがあった。図書室気付、桐谷望様。私個人の名を書いた月曜便は、これが初めてだった。

封を切ると、中から出てきたのは古い乗車券の半券と、四つ折りにされた紙片だった。乗車券は旧駅のもので、日付は二十年前。紙片を開くと、鉛筆で短く一行だけ書かれていた。

〈番台の下〉

澪の字だった。詰めて書かれた癖のある文字。頁の端を爪で押さえるときと同じ力の入れ方が、線の太さに残っている。

私はしばらく、その四文字を見つめていた。地下帳場はすでに一度見ている。棚の下の隙間、釘で隠された薄い扉、湿った紙の匂い。あの奥に、まだ見ていない場所があるということだろうか。

昼休み、私は瀬尾さんに電話をかけた。

「番台の下、というのは、地下帳場のことではないと思います」

彼はすぐにそう言った。

「地下へ続く入口なら、澪さんは別の言い方をしたはずです。番台そのものの底を指しているのかもしれません」

「家具の底、ですか」

「古い帳場机には、二重底の引き出しがあることがあります。売上金を隠すためではなく、大事な帳面を火事や盗難から守るために」

早瀬さんには、まだ報告していなかった。今夜こそ入らないでくれと言われたことを覚えている。それでも、この紙片を見せれば正式な手続きを踏むまでに時間がかかる。澪が二十年かけて残したものが、これ以上遅れていいとは思えなかった。

夕方、私は瀬尾さんと倉庫街で落ち合った。

月舟堂の窓は暗かった。番台の明かりも点いていない。それが、かえって不安を煽った。誰かが見ているときだけ点く明かりなら、消えているのは誰も見ていないという意味ではなく、誰かがすでに用を終えたという意味かもしれない。

前に見つけた裏口の隙間から中へ入る。埃と糊の匂いが、記憶していたよりも濃く感じられた。棚は相変わらず整然と並び、背の高さが一分の狂いもなく揃っている。誰かが今も、ここを整え続けている証拠だった。

番台は思ったより小さかった。黒く古びた木の机で、天板には長年の使用でできた丸い染みがいくつも残っている。私はしゃがみ込み、底板に指を這わせた。

「継ぎ目があります」

瀬尾さんが懐中電灯を底へ向けた。木の板に、後から嵌め込まれたような細い線が走っている。彼は道具箱から薄いへらを取り出し、その線に沿って差し込んだ。

「無理には開けません。木が古い」

「壊さずに開けられますか」

「開けるためではなく、外れるように作られています。澪さんが、いつか誰かに見つけてほしくて」

しばらくの間、彼は呼吸を整えるように黙って作業を続けた。乾いた木の擦れる音が、静かな店内に響く。やがて、底板が音もなく持ち上がった。

中には薄い箱があった。木製の、蓋のない箱。中身は古い封筒の束と、鉛筆で書かれた紙片の山だった。私は手を伸ばし、いちばん上の封筒を取った。宛名はない。差出人もない。ただ、封の糊が、他のどの封筒よりも古く乾いていた。

「これは」

瀬尾さんの声が低くなった。

「地下帳場より前のものです。紙の劣化がまるで違う」

私は封を開けようとして、指を止めた。ここで開けてしまえば、この場所で何が起きたのか、誰にも証明できなくなるかもしれない。瀬尾さんの言葉が頭をよぎった。傷を残すことは、どう壊れたかを次の人へ渡すことだと。

「開けずに、記録を先にしましょう」

私は言った。自分の声が、いつもより少し震えていることに気づいた。

瀬尾さんが写真を撮る間、私は箱の底に残った紙片を一枚ずつ確かめた。そのうちの一枚に、見覚えのある記号があった。切符、蔵書印、署名、返却記録。町史保存会の帳簿にも、月舟堂の売却台帳にも刻まれていた、あの細い線と点。

そして、その記号の下に、澪の字で短く記されていた。

〈ここにあるものは、消されなかった〉

私は箱の蓋を静かに閉じた。

外へ出ると、潮風が頬を打った。倉庫街の向こうで、船の汽笛が長く尾を引いて消えていく。今夜のうちに早瀬さんへ連絡しなければならない。約束を破ったことも、見つけたものも、すべて。

けれど今は、箱を抱えたまま、しばらくその場に立っていた。二十年間、誰にも開けられなかった重さが、腕の中にある。姉が最後に選んだのは、消えることではなく、残すことだった。その事実だけを、まず確かめたかった。

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